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【緊急講演会メモ(続)質疑応答部分】AMED理事長--科学のオートノミー(自治)を守る

 2月20日に東京で行われた、日本医療研究開発機構(AMED)の末松誠理事長による緊急講演会(主催・日本科学技術ジャーナリスト会議)の講演メモを公開したところ、一定の反響がありましたので、引き続き質疑応答の主要部分を以下にまとめました。(その後、日本科学技術ジャーナリスト会議による録画がYouTubeにアップされました)


 質問内容は、新型コロナウイルスの対応状況や、内閣官房健康・医療戦略室(以下、戦略室)との関係から、安倍首相に対する感想まで。独特の喩え(例えば「アントニオ猪木vs.モハメド・アリ」)を用いたりソルジェニーツィン(旧ソ連の作家)を紹介したりして、科学のオートノミー(自治)を守ることについて、講演を含め計2時間にわたって明快な言葉で語りかけていました。


 長くなるので、質問内容を先にまとめました。

Q. 1月31日に調印したデータシェアについて。何が変わるのか

Q. 2月19日に決まったというプラットフォームについて、AMEDの関わり方は?

Q. コロナウイルスの現状について。また、AMEDがいま置かれている、自立を阻む環境とは。いったい何が起きているのか

Q. 「平成30年7月」とその後に何があったのか

Q. コロナ対策で困っていることは。

Q. コロナの受け入れをめぐる、「動画」含む一連の問題についての感想。それから、科学が政治、官僚と付き合うにはどんな関係を構築したら良いと考えているか。

Q. 新型コロナウイルスのWHOへのデータの共有ルートについて、入り口はオープンなのか

Q. コロナウイルスのゲノム配列共有関連。NGSのローデータを提供いただけるのか

Q. 症例についての研究もしていく必要があると思うが、厚労省が直接、それともAMEDが何らかの形で関わって感染研の研究と統合してやっていく仕組みなどがあるのか。

Q. AMED発足時に掲げていた創薬ハイウェーという言葉を最近、聞かなくなった。AMEDはシャペロンというイメージだったが、その後バッファとしてのウェイトが大きくなってしまっているようなジレンマがあるのでは? AMEDを誘導体やシャペロンにするためには?

Q. 第1期が終わり、もうすぐ第2期。理事長職を続けたい?

Q. 「カナリヤ」として、安倍首相のこと信じているか? あなたは、自分がカナリヤだと言われた。カナリヤとして危険信号を発している。それをちゃんと受け止めて、適切な判断をしてくれると信じているか。

Q. 調整費について。今年の2回目の調整費の配分の評価は? 「トップダウン」関連。

Q. 調整費のトップダウンはAMEDの発足時にはなく、理事長裁量経費だけ使われてきた

ということか

Q. 2019年7月5日に官邸の和泉補佐官室で恫喝を受けたとの文春報道。この事実関係についてご存知か。それから、政治と科学の関係性に関してさらに突っ込んで、戦略室とAMEDの関係性はどうあるべきか

Q. 最後に、AMEDが一番困っていることは何か?


Q. 1月31日に調印したデータシェアについて。何が変わるのか

 まずスピードが違う。研究者にとっては論文が命。ピアレビューをやって結果を待っていると、その分遅れる。また、ピアレビューは完璧な仕組みではない。中にコンペティターがいたら、足の引っ張り合いが始まる。

 そういうピアレビューのプロセスを除いて、データが出た時点でWHOにオープンにしようと。非常に強い約束で、WHOにデータを出したかどうかジャーナルがチェックする。CNS、NEJMはもちろんのこと、ほかのメジャーなジャーナルはみな入っている。


Q. 昨日(19日)決まったというプラットフォームについて、AMEDの関わり方は?

 厚労省も当然、補助費というお金を出していて、いくらかはわからないのだが、鈴木康裕医務技監とも連絡を取って、貴重なお金なのでそこはデマーケーションである。AMEDがやっていることと厚労省がやっていることが重ならないように。厚労省だとやりにくいけれどAMEDのお金だとやりやすいことと、その逆。研究よりも行政に近いところは厚労省のお金を使おうと。

 今回、議員さんのお力で25億ぐらいのお金が使えることは本当に大きい。厚労省が行政の力で解決しないといけないことが、コロナだけでもたくさんある。その部分の研究開発を我々の予算で補完するということを、厚労省とよく相談しながらやっていこうと考えている。


Q. コロナウイルスの現状について。またAMEDがいま置かれている、自立性を阻む環境に置かれているという。いったい何が起きているのか

 コロナについて可及的速やかにやっていることは、国立感染研と東大医科研にファンディングアロケーションを4.6億円。診断キットの改良をやる。これはどこまで話して良いのかわからないが、結核菌の遺伝子の増幅反応を使うキットがあるほか、SARSの時の技術・ノウハウが国立感染研にある。そこと民間企業がタイアップして新型コロナのために必要なコロナの開発を、すでに進めている。そこまででご勘弁を。

 AMEDのオートノミー(自治)が消失すると…という話について。よく考えていただきたい。山中(伸弥)先生のiPSストック事業であるから、問題が表面化した。山中先生が一番お怒りになっているのは、お金が減らされたこと(まだ減っていないが)ではない。どこで、誰が、どういう決定プロセスで、どういう透明性で決められたかのかを全く説明できない状態で、あなたのお金を切りますと言われるわけだ。

 こういうことが、トップダウンのピラミッド構造でガバナンスが利いているところで一度そういうことが起きると、AMEDには優秀な官僚がたくさんいるので官僚を蔑むようなことは言いたくないが、官僚は一つ穴が開くとコピー&ペーストする。前例という形で。それが医学だけでなく、他のサイエンスに飛び火したらどうなるのか。これは山中先生の問題ではなくて、皆の問題であるということを、科学のコミュニティは知るべきだというのが僕の主張である。ジョン・ダンの詩「誰がために鐘は鳴る」である。人が死ぬと鐘が鳴る。これは、あなたのために鳴っているのだと。他人が死んだら、自分が死んだのと同じだと思いなさい、という詩である。

 若い研究者は、「山中先生のお金が切られたら大変だな」と思うかもしれないが、そうじゃない。突然、科研費が切られた。一事が万事、一つの例外を認めたらそういうことになるのだということを申し上げたいのである。


Q. 「平成30年7月」とその後に何があったのか

 7月は人事異動の時期だ。よくお分かりでは。個人攻撃はしないが、トップがおかしな判断を再三にわたってやった時に、AMEDの役割はそれを糾す役割なんじゃないのか。「両側」をわかっているのだから。役人はどう動くのか、そして研究者はどうなのかということを、一応はわかっているのである。ならば、誰が注意するのか。AMEDが言うのだ。だがこれは、AMEDの問題だとは思っていない。


Q. コロナ対策で困っていることは。

 困っていることは、いつもあります。AMEDが発足した時から何も変わっていない。使わせていただける貴重なお金を、どうやって公平、迅速に配るか、それから配ったお金がきちんと使われているか、結果が出ているかどうかを判断するのが我々である。

 今のところ、コロナに関しては4.6億、最初のブーストマネーが動き出したところなので、困っているところは表立ってない。

 しかし、感染症研究課と創薬戦略部とで、これからちゃんとやらないとまずいなと思っていることがある。全国の、生物封じ込めレベルBSL3(バイオセーフティーレベル3)など、新型コロナを扱える研究所がいくつかあり、そこから次々と情報が来ている。

 BSL3のスペースはあるけれど、例えば細胞株にウイルスを感染させて、細胞の表面に出てくる感染を示すマーカー抗原を細胞レベルで正確に拾う機械があるが、これは日本に1台もない。低温電子顕微鏡は日本に数台入っていて、このうち東大に入っているものは外部も共同利用できるようになっている。しかし、コロナや将来プリオンが問題になった時に使えるかと言うと、使えない。なぜなら、BSL3の施設に入っていないからだ。

 それから、ワクチンを作ろうとなると動物実験が必要になる。動物にウイルスを射って薬がどう効くかという前臨床の仕事が当然必要になるが、この動物舎がBSL3できちんと稼働しているところがどのくらいあるかというのを今、調査中だ。つまり、部屋があるということと稼働するということが、全く違うレベル。

 企業ではおそらく、BSL3が常に動いているとわけではないと思う。通常はBSL2の基準で稼働していて、BSL3が必要になった時に人間が防護服を着るトレーニングをして、それでようやく動く。

 政治サイドはお金を配ったらスッと動くとお考えになっているだろうが(※筆者注・質問者は立憲民主党の参院議員)、AMEDの5年はその苦労の連続だった。何より苦労しているのは、我々以上に現場の研究者の方々。例えば東大医科研の施設は築50年の古さだ。そういうところを、こういう機会にきちんとサポートしておくということ。

 オーストラリアと協定を結んだ結果、BSL3と4のトレーニングのために、日本の若手研究者が何人も行っている。その人たちが帰ってくると、BSL3、4を動かせる人材になる。そこをきちんとしないといけない。僕らの仕事として、非常に重要。


Q. コロナの受け入れをめぐる、「動画」含む一連の問題についての感想。それから、科学が政治、官僚と付き合うにはどんな関係を構築したら良いと考えているか。

 前者の質問は、答える立場にない。

 二つ目の質問は、非常に重要だ。

 米の国立衛生研究所(NIH)と、英国医学研究会議(MRC)という基礎研究が中心だがトランスレーショナルも一生懸命やっていて、患者さんからデータを取ることも一生懸命やっている、非常にすばらしいファンディングエージェンシーがある。ここの経験を見ると、モハメドアリ対アントニオ猪木だ。両方とも自分が一番だと思っている違うセクターの人と相向かい合うと大変なことになる。不思議な戦いを展開することになる。

 AMEDは600人ぐらいの職員がいる。いまは含め4省(厚労省、文科省、経産省、総務省)。さらに全国の大学・企業などからもきていて、非常にヘテロな集団。しかし根本的な違いは、サイエンス・アタッシェの集団である。(NIHやMRCには)サイエンスもビューロクラシーもわかっている人がゴマンといる。AMEDができる前は、ほとんどいなかったのでは。

 AMEDは2年で人が替わる。すべてのことをプロトコル化する必要がある。僕自身は、修士課程の先生みたい。今やAMED経験して本省に戻った方たちは活躍している。サイエンスアタッシェができる人材をどんどん作っていく。それから、リサーチコミュニティには、自分の研究はちょっとパッとしないが、他の人の研究をコーディネーションするのを得意とする人が結構いる。そういう人にAMEDに来て欲しいが、最近は週刊誌が騒がしいから来なくなるかもしれないが。

 Heterogeneity(異質性)とautonomy(自治)が守られることが、魅力的な組織に絶対不可欠であると考える。


Q.新型コロナウイルスのWHOへのデータの共有ルートについて、入り口はオープンなのか

 ある。ウェブサイトで見つけられる訳ではないので、是非ご一報いただきたい。それから、WHOの会議を共催した国際機関がもう一つある。「GloPID-R(感染症のアウトブレイクに対する国際連携ネットワーク)」。AMEDも確か2016年に加盟している。データの共有に興味がある方は、ご質問があればAMEDに問い合わせいただければと思う。


Q. コロナウイルスのゲノム配列共有関連。NGSのローデータを提供いただけるのか

 現在、国立感染研が非常に頑張っている。日本で見つかったヴァリアント、どれとどれが関係があるかということは非常に大事なので、そう言ったデータも出てくるのではないかと考えている。

 ニコ動に出たおかげで感染研の先生がお怒りになっているかもしれないが、私が申し上げたいのは、感染研の皆さんが昼夜問わず大変なお仕事をされているということ。船から運ばれた検体をすべて処理するのは大変で、その中でDeep sequencingにかけるサンプルがあり、そこから違うヴァリアントが拾えてくるかとか、どういう系統樹になるのかとか、着々と研究が進んでいると伺っている。ぜひ期待をしていただきたい。


Q. 症例についての研究もしていく必要があると思うが、厚労省が直接、それともAMEDが何らかの形で関わって感染研の研究と統合してやっていく仕組みなどがあるのか。

 まず、最初の質問について。国際医療センターを中心に一部の臨床研究が始まりつつある。薬のチョイスのほか、既存の抗ウイルス薬プラス、インターフェロンγを併用するとどうなるかとか、あるいは重症肺炎に対してステロイドホルモンを使用するといい場合と悪い場合があるが、本当に生命の危機に瀕した際にステロイドホルモンが有効だった場合がSARSの時にあったので、今回はそれがどうなのか等。そういったことを見極める臨床研究が、今後必要になるだろうと思う。

 今のところ、厚労省が主導で動いている。今回、コロナに転用できる金額が相当なお金が出たので、新しい臨床研究が組める。臨床研究治験基盤事業部で、それを厚労省と協調してやっていく、プラットフォームの中に含めていこうと検討が始まっている。

 二つ目の質問。来年度から予算が六つのモダリティーになる。これによって、AMEDでは感染症研究課や難病研究課がなくなる。難病はどこが、感染症のアウトブレイクに対してはどこが対処するのかなど、患者さんには非常にわかりにくいが。一見大変なように見えるが、事業統括部門を新設し、感染症が起きたらこことここを組み合わせようとか、AMEDの予算全体をパレットのように考えて、どれとどれを組み合わせると新しい問題に対応できるのかというのを、疾患構造特異的に決めるのではなくて、方法論で対処していこうというやり方。4月から。

 正直なところ、疾患構造別の方が分かりやすかった。モダリティー別に自分をアダプトするのに時間がかかった。とはいえ政府の決定である。いい点もある。未知の問題に対し、何を組み合わせたら良いかということを、AMEDが立案していくことになる。

 大変かもしれないが、非常に大きなチャレンジである。克服したいと、前向きに考えている。もしも、うまくいかなかった時は? イギリスではファンディングの仕組みを縦割りから横割りにしたらどうだろう、という実験をやっている。イギリスとスイスは非常にチャレンジングで「Fail earlier」という、失敗するのなら早くしろ、そしてすぐ替えろという姿勢。


Q. 「創薬ハイウェー」という言葉を最近、聞かなくなった。AMEDはシャペロンというイメージだったが、その後バッファとしてのウェイトが大きくなってしまっているようなジレンマがあるのでは? AMEDを誘導体やシャペロンにするためには?

 我々はcatalyst(触媒の意)である。バッファと言われてしまうと困る(笑)。日本橋にある創薬戦略部は自由闊達で、オートノミーがいきすぎて(笑)、楽しんでいる人たちがいる。創薬戦略部を発足3年目に作って、非常に良くなったと思っている。第2期はもっと大変で、本当にモノを作らないといけない。チャレンジである。

 1期目は、低分子化合物の専門家が圧倒的に多かった。製薬会社の方々の協力あってのことなのだが、今後は中分子や生物製剤にチャレンジする上で、4月以降の新しいモダリティーのもと、がんも認知症も理解するという人材を、OJTでトレーニングするするしかない。大変な課題である。答えになっていないかもしれないが。外国に出て経験をどんどん積ませる仕組みが2期に必要なのではないかと考えている。


Q. 第1期が終わり、もうすぐ第2期。理事長職を続けたい?

 決定するのは総理大臣。総理の思し召しである。私に与えられた任期は3月31日までである。まず1月19日の審議会のことから(※筆者注・理事長が「研究のオートノミー(自治)」について発言した)。僕の覚悟はというと、旧ソ連時代に獄中で小説「収容所群島」を書いたアレクサンドル・ソルジェニーツィン。牢獄にいながら小説を書き、国外追放された人。ソ連崩壊後に名誉回復された。すごいなと思います。

 どこかの役所を辞めて暴露本を書いても、あっという間に下火になる。それは、言うべきことを中にいるうちに言わないからだと思う。多くの官僚は黙々と辛い仕事をしている。プレッシャーを避けつつ逃げつつ、受けつつやっている。そういう人たちに覚悟を決めて、「カラスはやっぱり黒いですよね」と言える人なんている訳ない。(筆者注・「白いカラス」については、緊急講演会の内容をご参照ください)

 独立行政法人(独法)の理事長は、これは5年目になってようやくわかったことが、カナリヤだ。炭鉱で毒ガスが出たら、最初に死ぬ。政府の人ではなくて独法にいるということは、僕らが仕事をさせて頂いているサイエンスコミュニティや、データを頂いている患者さんに対して、その気持ちを代弁して、政府にきちんと「これはおかしい」「良い」とか落とし所はこうだなとか、的確に言っていくこと。オートノミーの蹂躙が行きすぎた時には、「蹂躙されていますよ」と言うべきだと。

 任期はあと1か月ほどだが、1日1日を大事にして、そこのマインドセットは絶対に動かさない。どんなプレッシャーをかけても、絶対にそこだけは曲げない。

 野党の皆さんからも厳しい質問をいただいているが、絶対に足を取られない。なぜならば、安倍総理はおそらく、この新型コロナをどうにかしないと大変だと一番考えておられる。僕らのスタンスは、そこをずらしてはならないからだ。

 昨日、国会で与党と野党のやり合いを見ていた。国会を軽視するわけではないが、感染症のアウトブレイクは戦争と同じである。国が一致団結してありとあらゆる知恵を集結する、普段は「自分は関係ない」と考える科学者にどんどん入ってきてもらって、アイデアをどうやって消化不良を覚悟でまとめるか、aggregateするか、それがAMEDの役割だと思っている。そういう覚悟でやっている。


Q. 「カナリヤ」として、安倍首相のこと信じているか?

はい?

Q. ご自身は、カナリヤとして危険信号を発していると言われた。それをちゃんと受け止めて、適切な判断をしてくれると信じているか。

 受け止めて欲しいですよ、と言わないですよ僕は。受け止めてもらっているという実感があるから。それが研究費のアロケーションになる。首相のコメントはだんだん変わっている。非常に緊迫した変化のしかたに。総理を信じないで、誰を信じるのか。そこがイエスと言わないと動かない訳でしょう。そんな時に、桜の会とか、おかしいでしょそれ。ウイルスは野党も与党も襲うし、年度切れとか越えとか関係ない。やれることをベストでやって、その思いがトップに伝わればきちんとした方向に動くはずだ。日本はまだ挽回するチャンスがある。ま、こういう風に信じるしかないが(笑)。


Q. 調整費について。今年の2回目の調整費の配分の評価は?

 正直に申すと、タイミングが悪かった。調整費は我々の業界では、--また調整室に怒られれますかね--、毒まんじゅうと言っている。後半の調整費は。日本は単年度決済なので、本当のルールは3月末までに使わないといけない。

 後半の調整費は11月に決まった。その頃、新型コロナはまだ問題になっていない。でもそこで予算の決め方が決まっている。中身はともかく、そこで行こうと。残りが数か月なので繰り越しをしないといけない。そうすると令和3年3月までお金を使えるようになる。そこで、コロナが1月になって動き出した。

 タイミングが悪い時に、柔軟に対応する。総理が「ありとあらゆる手段を使って手立てをする」とおっしゃっている。ありとあらゆる手段というのは、一度決まった予算をひっくり返せるかどうかということで、与党の議員さんたちは大変なエネルギーを使って、幸いご理解があったおかげで25億円の予算が追加できた。追加とは、新しいお金じゃなくて、もともと後半の調整費で使う予定だったものを、新型コロナに投下するというのが決まったというわけだ。ほんとは全部使いたかったですよ。

 それ(25億円)を動かさないと、さっきの臨床研究のことや迅速診断キットの開発と量産が動かなくなる。厚労省の予算も当然限られているが、一生懸命やってくださっている。両方を合わせてどういうことができるか、時間をかけずに相談して動かしていく必要がある。


Q. 時期について触れていたが、その点では、トップダウンであったのか日常作業であったのか、関係ないのか。

 大いに関係する。トップダウン調整費でそれが起きたわけだ。


Q. トップダウン調整費に関しては、85億円から25億円出せたのは、それが結果的に配分されていなかったと言うことか。

 で、不測の事態が起きたじゃないですか。不測の事態に対応するために、新しい財源を求めるのではなく、決まった予算の中で、これは少し後でもいいんじゃないかとか、もう一回精査するわけ。それで25億円を紡ぎ出してくださったということ。それをどう活かすのか、具体的なことを考えるのは僕らである。そのようにご理解いただきたい。新しい財源を使わずに、25億円が使えるというのは結構大きなインパクトだと思っている。


Q. いまの文脈で言うと、トップダウンはどう関係しているのか。

 88億円(※筆者注・85億円か?)をトップダウン経費として決められた。そこにはAMEDにはまったく関わらないというルール。ルールの範疇で行われている。その決まったものをひっくり返すのだから、議員さんが使ったエネルギーは大変なものだったと思う。普通はひっくり返らないんだから。


Q. 繰り返しになってしまうが、トップダウンだったから今回はどう関係しているのか?

 「トップダウンだからひっくり返りにくかった」という言い方をしてほしい?(笑)

Q. いや、本当によく分からないので。

 僕もよく分からない。トップダウンというのは、どういう「トップ」の人が決めたのかどこにも書いていないのだから、分かりようがない。僕らと相談して決めたわけでもない。でも大きなお金。それが大きくなると、AMEDの調整費175億円のフラクションがどんどん減っていくわけだ。それを考えると、もう少し相談してもらいたかったなというのが正直なところだが、それは政府のルールで行われていること。

 いま我々がエネルギーを割かなければいけないのは、新しい25億円をどうやって活かして使うのか、どういう順番でどこに使ってもらうのか、いま考えていることはもうそれだけだ。


Q. トップダウンの話はあまり関係ないということか。

 いや、もう、そういうこと考えだすと、25億円がトップダウンなのか理事長裁量経費なんですかなんて、クエスチョンだ。そういう言い方すると分かります? どこにも書いていない。でもそんなことどうだっていいんじゃないですか。お金なんだもの。それがどうやって活かして使われるかということに、我々は案も意見も持っている。あとは、戦略室との調整次第、こういうことになる。で、それはあんまりゆっくりやっていられない。


Q. 調整費のトップダウンはAMEDの発足時にはなく、理事長裁量経費だけ使われてきたということか

 AMED発足時に経営企画部長に「理事長裁量経費って何?」と訊いたら、「理事長の自由にならない経費です」と言われた(笑)。基本的に、全部ピアレビュー。あるいはピアレビューで出た良い課題に、ブーストマネーを載せる時に、理事長の裁量で載せられるお金である。それで4年はうまくいってきた。

 平たくいうと我々が色々な調整費の提案をして、まず戦略室のみなさんに見てもらうのだが、それがなぜだか知らないが5年目になると、あれ出してもダメ、これ出してもダメという状態。もしかすると、僕らの提案の仕方が悪かったからかもしれない。でも、もう一つの理由は、その頃からお考えになっていたのかもしれない。みんな「×」にすれば、トップダウン調整費のフラクションができる訳だから。でもそれは、単なる推論でしかないので。推論言っているというのは、サービスしているのだということをわかって欲しいなと思います(会場笑い)。


Q. 2019年7月5日に官邸の和泉補佐官室で恫喝を受けたとの文春報道。この事実関係についてご存知か。それから、政治と科学の関係性に関してさらに突っ込んで、戦略室とAMEDの関係性はどうあるべきか

 1点目について、その場にいた方々全員から、報告は受けている。残念ながら僕は御社の(※筆者注・質問者は週刊文春記者)ファンじゃないので、雑誌も買っていないし、どんな録音かも聴いていない。本当だ。7月5日に3人が呼ばれたということは報告を受けているが、次期の戦略の問題で集まったということは知っているが、臨場感とか、僕はいなかったので全くわからない。そこは信じていただければと。

 2点目の戦略室との関係について。5年を振り返ってみると、歴代の次長さんは素晴らしいコミュニケーターだった。あえてはっきり申し上げると、最初の3年半は素晴らしかった。僕のようなキャラを我慢しつつ、catalyst(触媒の意)の人が次長をしてくださっていた。歴代の次長さんには本当に感謝している。財務省からの出向の方に対して、来年度の予算をフレキシブルに使うには、どのようにルール変更したら良いかなど、そういうことは戦略室が行うのでないと、我々ではできない。

 Catalystとしての資質をお持ちでない方がもし仮になった場合には、それがワークしなくなる。情報の分断が起きる。「猪木・アリ」状態になる。属人的な問題でなくて、そういうマインドセットをみんなが共有すべきだと思う。きれいごとかもしれないが。次長さんは初代から3代目までは、素晴らしい人でしたね。そこらへんで勘弁してほしい。文春さんが勘弁するとは思えないが。


Q. 最後に、AMEDが一番困っていることは何か?

 やっぱり、決定プロセスの遅さ。我々は、戦略室がきちんと了解するということは必要だと思う。政府がやることになるから。戦略室にサイエンスのわかる人がもう少し入ってきてもらって、我々が提案させて頂いたことをちゃんと吟味してもらう。コレがいけないアレがいけないというマイクロマネジメントが多すぎると、それだけスピードが遅くなる。我々の職員も疲弊する。今はそれがルールなので、やむを得ないなと思っている。しかし、今回のような緊急対応が必要な場合に、同じようなことをやっていたのでは、決まるまでに時間がかかりすぎる。

 例えば、国際交流で自分が行って、相手の国のrepresentativeと会って、データシェアリングなどはその場で「OK! やろう!」といえば終わり。それを、「ちょっと、あの、東京に帰って訊いてみる」なんて…。絶対にやってはいけない。行った人間が、その場で決めなきゃいけない。そこは未だに、戦略室とは見解が違う。

 私の下で働いている皆さん素晴らしくて、フラットな組織。同じように戦略室もトップがいてもフラットな組織であっていてほしい。そこがピラミッドになると、みんなショッカーになっちゃう。それはまずい。また怒られると思うけど。

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